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方位神 その2



三鏡


ホキ内伝の巻一の最後には「三鏡」という神格が記されています。この「三鏡」は、ホキ内伝の巻一に記される一方で、牛頭天王縁起本文には一切登場せず、また、その具体的な神格についてもホキ内伝において詳細な言及がなされていない特殊な神格です。

「三鏡」については、ホキ内伝に以下のように記されています。(表記の都合上、一部漢字を改めています。)

右此ノ三鏡ハ日月星ノ三光、天人地ノ三才、法報應ノ三身、阿鑁吽(あばんうん)ノ三字、佛部蓮華部金剛部ノ三部、理智事ノ大日弥陀釈迦薬師ノ三尊、荼枳尼(だきに)聖天弁財天ノ三天ナリ。春ハ大圓鏡智(だいえんきょうち)、故ニ三弁宝珠形ヲ以テ禮拝(らいはい)ス。三鏡三玉女ハ是ナリ。

三鏡に関しては、上記のとおり諸般における三才観が列記されています。つまり、三鏡とは、いわば森羅万象における三才の概念・思想が神格化したものであり、陰陽道において、三鏡を三弁宝珠形をもって礼拝することとされています。

ホキ内伝に「三鏡三玉女は是なり」とあるように、三鏡とはすなわち三玉女でもありますが、三玉女とは『天皇玉女 - てんのうぎょくじょ(天)』、『色星玉女 - しきせいぎょくじょ(地)』、『多願玉女 - たがんぎょくじょ(人)』をいいます。

上記した三玉女の具体的名称に関してですが、これについては「天保新選 永代大雑書萬暦大成(えいだいだいざっしょばんれきたいせい、えいたいおおざっしょばんれきたいせい)」に依拠しています。ホキ内伝は二十数本が伝本されているようで、これらには少なからぬ異同があります。
三玉女の具体的名称に関し、ホキ内伝において言及されているのかどうかについては全ての伝本を確認することができないため、断定的な表現を用いることはできませんが、おそらく後世において具体的名称は付与されたものと思われます。また、天・地・人の対応に関しては、伝本における掲載次序および萬暦大成の両者により総合的に判断しています。(上記引用文のように、天・地・人を「天人地」と表記する伝本も存在するため、萬暦大成の三鏡宝珠図における座位の一般的な次序解釈と照らし合わせて判断しています。)

「玉女」とは、道教(東洋における三大宗教の一。仏教・儒教・道教)における天界の官吏の一で、簡潔に言えば「女神」といえます。陰陽道ではこの玉女神を、その思想体系に取り込みました。

この三鏡は、数々の方位神が誕生した古代日本において、現代における最大吉神と一般に解釈される傾向のある「歳徳神」に勝る吉神と解釈されていたようです。廃仏毀釈の流れを受ける明治の改暦によって、これら方位神が暦の上から抹消されたことは、他の項でも何度も記述しましたが、なぜか三鏡に関しては、それよりもはるか以前に暦の上から、その方位表記が抹消されてしまい、三鏡を表す絵図(三鏡宝珠図あるいは三鏡宝珠形)のみが記載されるにとどまるようになってしまったようです。

- 三鏡宝珠(三弁宝珠)図 -

伊勢暦(1798) 永代大雑書萬暦大成

(左)多願玉女 (中)天皇玉女 (右)色星玉女


その真相を知る術はありませんが、「永代大雑書万暦大成」には『(天皇玉女に関し)諸ぐわんじやうじゆ(諸願成就)し諸事のきとう(祈祷)に此方をもちひてよろしからずといふ事なし』という記述があります。

つまり、この玉女神は方位神の側面を持ちつつも、願い事をかなえる神として存在していたと解することができます。この「祈祷」という部分が、あるいは時の為政者や暦をつかさどる者たちにとって都合が悪い存在だったのかもしれません。

陰陽道は、皆さんもご存知のように呪術を用いて災厄を祓います。また、方位術は、合戦時においては自軍、ひいては自国のすべての兵や民の命運をも左右する非常に重要なものでした。このことからも三鏡宝珠は方位・祈祷(呪術)の両者を具備した非常に重要な神であったと推察できます。実際に、とある陰陽道の呪術作法のなかにも、玉女神は登場します。

したがって、真気九星学においても、この『三鏡宝珠』を諸般の祈祷に用いることとなりますが、祈祷あるいは呪術というものは「吉事」に用いることもできれば「凶事」に用いることも可能です。より明瞭に表現すれば、人の幸福を願うことに用いることもできれば、人の不幸を願うことに用いることもできてしまうということです。

また、自身の幸福を願うことが、逆に第三者の不幸を願うことに通じてしまうことも往々にして存在します。たとえば、自国の勝利を祈願することは他国の敗北を祈願することと結果的には同義です。
これらの点を鑑みるに、三鏡宝珠による祈祷(呪術)について、その詳細をこの場で説くことは控えることとします。

三鏡宝珠(『天皇玉女』、『色星玉女』、『多願玉女』)の運行方位および神々がつかさどる事象は以下の通りです。


- 天皇玉女 -
諸願成就し、諸事の祈祷に此の方用いて万よし
月の十二支
運行方位


- 色星玉女 -
新しき衣服を着染め、また、裁つなどに此の方吉なり
月の十二支
運行方位


- 多願玉女 -
出行ふねのりたびだちなどに此方を用ひて万よし
月の十二支
運行方位




次のページにて、九星における万人共通の凶方位、いわゆる「凶殺」および、吉凶評価の概念について解説します。
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